高橋克彦氏といえば、ミステリ、SF・伝奇、ホラー、歴史・時代小説と幅広い作品を生み出している作家であるが、僕の中では「歴史小説作家」。
氏の作品は、そのジャンルしか読んだことないし、『火怨 北の燿星アテルイ』→『炎立つ』→『天を衝く』(刊行順ではなく、時代順かつ僕の読んだ順)のいずれも面白かった(特に『火怨』)。
『のぼうの城』なんて、目じゃない。暑苦しい小説が嫌いな人には、不向きだが。
で、上の3作は蝦夷3部作とも呼ばれ、蝦夷(東北)と中央(大和朝廷)の争いを描いているのだが、『風の陣』は『火怨』の前時代の蝦夷VS中央を描いたシリーズなのだ。
その存在を知ったのは、文庫最新刊の第4巻発売広告。これを知らんとは、迂闊だった!読まないわけにはいかない!と書店へ。ちなみに単行本は、これまた最近5巻が出て完結。
『立志篇』『大望篇』は、シリーズ最初の2巻である。
・立志篇内容(「BOOK」データベースより)
8世紀中頃の黄金発見に端を発する奥州動乱と、中央政界の血腥い権力抗争を描く大河ロマン。蝦夷の若者・丸子嶋足は、黄金を土産に帰京する陸奥守の従者となり平城京に上る。8年が過ぎ、衛士府の官人として異例の出世を遂げた嶋足は、やがて奈良朝を震撼させた政変・橘奈良麻呂の乱の渦中に、自らの身を投じるのであった・・・。迫り来る動乱の兆しの中での、若き蝦夷たちの躍動と葛藤を描く。
・大望篇内容(「BOOK」データベースより)
橘奈良麻呂の乱が平定され、3年半が過ぎた天平宝字4年(760)秋。奈良麻呂を葬った藤原仲麻呂は、恵美押勝と名を変え、新帝を操って強大な権勢をふるっていた。黄金をねらい、陸奥支配の野望を抱く押勝に対し、牡鹿嶋足、物部天鈴らの智略を尽くした戦いが始まる!平城京の激しい権力闘争の渦中にあって、蝦夷の平和を守るべく奮闘する若き英傑たちを活写した歴史大河ロマン第2弾。
期待に違わず、面白い!
日本史の授業や教科書は、(世界史よりはマシだったけど)年号や人物名やエポックメイキングな事項で、歴史の流れを押さえていくだけに過ぎない。そこには、確かに歴史の中にいたはずの生身の人間たちの息遣いが聞こえてこない(仕方ないけど)。
その点、小説はイイ。
もちろん、フィクションや架空の人物が紛れ込んでいるのだが。たとえば、上の内容紹介の中で言うと、『火怨』にも登場する物部天鈴は架空の人物だ(だよね?)。
しかし、この天鈴が嶋足と共に、蝦夷を朝廷の膨張主義から守るために、藤原仲麻呂(恵美押勝)、吉備真備、道鏡、坂上苅田麻呂(田村麻呂の父)etc.と敵対したり、味方に付けたりして、権謀術数の数々。読み応え、ある。そして、蝦夷でありがなら、蝦夷のために朝廷に仕え、その武勇により中央で異例の出世を遂げていく嶋足の、蝦夷を思うと同時に朝廷を思い、上司である苅田麻呂を尊敬し、国全体を思う真っ直ぐさが、イイ。
一気に後半に行きたいところだが、第3巻が書店で見つからないので、一旦措いて、次は『七瀬ふたたび』(筒井康隆・著/新潮文庫)。