2011年01月23日

エディプスの恋人



 七瀬三部作の最終作である。


・内容
ある日、少年の頭上でボールが割れた。音もなく、粉々になって−それが異常のはじまりだった。強い“意志”の力に守られた少年の周囲に次つぎと不思議が起る。その謎を解明しようとした美しきテレパス七瀬は、やがて自分も、あの“意志”の力に導かれていることに気づく。全宇宙を支配する母なる“意志”とは何か?
(裏表紙より)


 前作のラストは一体何だったのか?読み始めて、すぐにそんな疑問に包まれる。七瀬は高校の事務職員として、一応は平穏な生活を送っている。超能力者を抹殺しようとした強力な謎の組織の姿は影も形もなく、七瀬もその存在を意識することはなく、怯えてもいない。ただ、自分の読心能力を、周囲の人間に気づかれないように注意しているだけである。共に戦い、命を落とした大切な仲間のことを思い出すこともない。

 なぜか、前作とまるっきり断絶しているのである。

 その理由は、終盤で意外な形で明らかにされる。

 ただ、整合性は十分とは言えない。おそらく著者はこのシリーズを前作で終わりにするつもりだったのだろう。連載・刊行時の事情には詳しくないが、人気が出たために、著者の意図に反して続編を書かざるをえなかったという話もあるらしい。

 今作の射程は、神=宇宙意志と人間との関わりにまで及ぶ。この世界に神が存在し、すべてが神の意志・天の配剤であり、人間が自分の意志で選び取ったと信じていることも、すべて神のコントロールの下にあるのなら、人間の存在価値とはどこにあるのか?七瀬が感じる非現実感・疎外感がリアルに迫ってくる。

 とはいえ、あくまでSFであり、エンタテインメントである。小難しい、取っ付きにくい作品ではない。ブラック・ホームドラマ『家族八景』、SFバトルアクション『七瀬ふたたび』、壮大なテーマを孕む『エディプスの恋人』と、全くテイスト異なる作品を1つのシリーズとして成立させた点が見事である。


 次は『新世界より(上・中・下)』(貴志祐介・著/講談社文庫)


posted by ふくちゃん at 18:46| Comment(0) | TrackBack(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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