2012年12月03日

華竜の宮(上・下)

 


・上巻内容(「BOOK」データベースより)
ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は“魚舟”と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす − 。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

・下巻内容(「BOOK」データベースより)
青澄は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長・ツキソメと会談し、お互いの立場を理解しあう。だが政府官僚同士の諍いや各国家連合間の謀略が複雑に絡み合い、平和的な問題解決を困難にしていた。同じ頃“国際環境研究連合”は、この星の絶望的な環境激変の予兆を掴み、極秘計画を発案する − 最新の地球惑星科学をベースに、この星と人類の運命を真正面から描く、2010年代日本SFの金字塔。


 約850ページの大作だが、一気に読了。名作『魚舟・獣舟』の世界が大きくスケールアップされ、濃 密な物語に。21世紀の『日本沈没』だな。いや、それ以上か。

 陸上民には外科的手術により補助脳が埋め込まれ、幼少の頃からアシスタント知性体と共に過ごすなど、SFらしいギミックはバッチリ。最初の地球規模の天変地異(海面の大規模上昇)を乗り越えた後の、21世紀の現在とは大きく変貌した世界の設定も細かく構築されており、リアリティがある。

 そして、どれほど人類文明が進んでも、滅亡の運命から逃れえないであろう新たな地球の大災厄。最新科学の知見が物語の中に無理なく、分かりやすく、生かされているが、苦難に見舞われる人類の、そして主人公の運命を描く著者の筆運びは冷徹で厳しく、全く容赦はない。

 各政府間あるいは日本政府内のパワーバランスに翻弄されながらも、外交官として、理想と信念と言葉と交渉で、陸上民にとっても海上民にとっても世界をより良きものにしようと力を尽くす日本の外洋公館の公使(外交官)の青澄。この陰影に富んだ若き主人公が良い。そして、青澄とアシスタント知性体・マキの関係、青澄を支える公館の上司やスタッフ達との関係も良い。

 また、青澄との直接の絡みは少ないが、主要登場人物として物語を牽引する汎アジア連合海上警備隊のツェン・タイフォン上尉も魅力的だ。こんな厳しく優しい生き方は、とてもまねできない。

 公館管理局長・枡岡の存在も効いている。

 彼らの言動に、ちょっと胸が熱くなる。

 さすが、第32回日本SF大賞。『SFが読みたい!2011年版』の国内篇第1位。

 これほどの傑作でもアマゾンのレビュー数は、本日現在、単行本で11、文庫本は0。まったく日本はSF不毛の地、SF作家には辛い国だなぁ・・・。

 本作では、物語本編とエピローグの間で48年、時間がジャンプする。2013年末には、この空白を埋める『深紅の碑文』が刊行されるらしい。「姉妹編」ということなので、ストレートな続編ではないかもしれないが、楽しみだ。

 SFは小難しいものでないし(難しいものもあるが)、子ども騙しの荒唐無稽なものでもない(いや、そういうものもあるかもしれないが)。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『華竜の宮』 − 未読の方は、同一の世界観で紡がれた一連の物語をぜひ。

〔評価〕★★★★☆


 次は、『ジグβは神ですか』(森博嗣・著/講談社ノベルス)。


posted by ふくちゃん at 20:46| Comment(0) | TrackBack(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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