2013年02月14日

写楽 閉じた国の幻(上・下)

 


 島田荘司氏、初読みである。こんなことだから、似非ミステリファンと呼ばれる。

・上巻内容(「BOOK」データベースより)
世界3大肖像画家、写楽。彼は江戸時代を生きた。たった10ヵ月だけ。その前も、その後も、彼が何者だったのか、誰も知らない。歴史すら、覚えていない。残ったのは、謎、謎、謎 − 。発見された肉筆画。埋もれていた日記。そして、浮かび上がる「真犯人」。元大学講師が突き止めた写楽の正体とは・・・。構想20年、美術史上最大の「迷宮事件」を解決へと導く、究極のミステリー小説。

・内容(「BOOK」データベースより)
謎の浮世絵師・写楽の正体を追う佐藤貞三は、ある仮説にたどり着く。それは「写楽探し」の常識を根底から覆すものだった・・・。田沼意次の開放政策と喜多川歌麿の激怒。オランダ人の墓石。東洲斎写楽という号の意味。すべての欠片が揃うとき、世界を、歴史を騙した「天才画家」の真実が白日の下に晒される − 。推理と論理によって現実を超克した、空前絶後の小説。写楽、証明終了。


 小説としての欠点はある。

 まず、主人公・貞三を写楽研究にのめり込ませるきっかけとして、冒頭で幼い息子の死が描かれる。息子は、貞三が目を離した隙に、高層ビルの電動回転ドアの扉に頭を挟まれて死亡。これにより辛うじて保たれていたエリートの妻、資産家の義父との関係は崩壊する。死を望み、廃人と化した貞三を生に繋ぎとめたもの、それが写楽探究だったわけだが、それにしても途中からはほとんどこの事故に関わるエピソード、妻と義父に関するエピソードが登場しないのは、小説の構成として不自然である。

 自動ドアの事故調査を通じて知り合い、なぜか貞三の写楽探究にも協力的(どころかキーパーソンでもある)、貞三そのものにも好意的な美貌の東大教授・片桐、謎めいた彼女の言動もどこか不可解なまま終わる。まあ、これは彼女のキャラクターをミステリアスにすることを狙っただけかも知れないが、彼女の本来の役目である事故調査のエピソードもほぼ登場しない。

 そして、写楽の肉筆画の謎は、完全に残されたままである。

 もっとも「後書き」にある通り、著者自身がそのことを理解している。「裏面のストーリー」をすべて書くとあまりに長くなるため、割愛したそうである。そして、この作品で語られた写楽の正体への異論にも回答しつつ、それらを書き尽くすための続編の構想もあるようだ。ぜひ、書いてもらいたい。

 さて、写楽の正体については、僕は佐藤貞三の説、すなわち島田荘司の説を全面的に支持したい。もちろん、僕は専門家ではないが、この作品はこれまでの通説(もこの小説で知ったのだが)を完全に論破しているように見える。意外な正体も、それ以外無いのではないかという説得力がハンパない。学界の反応を知りたいが、「小説だから」と無視するのだろうか・・・。

 正直「江戸編」は必要ないのではないか、とも感じた。でも「読書メーター」では「現代編」はいらないという意見もあり、人それぞれである。現代編は、証拠と推理だけで江戸時代の謎の真相を突き止める、いわば安楽椅子探偵の趣きがあり、知的興奮がある。一方、江戸編はそれをリアルタイムで裏書きしたフィクションに過ぎない。・・・と言いつつ、江戸編は蔦屋重三郎のキャラクターが実に生き生きしており、それだけでも楽しかったりする(笑)。特に江戸編のラスト、重三郎と写楽(となった人)の別れのシーンは、ジーンと来る。

 読み応え、がっつり。写楽つながりで、宇江佐真理氏の『寂しい写楽』(小学館文庫)を読もうかと思ったが、こちらは通説に則った話らしいので止めておく。

〔評価〕★★★★☆


 次は、『出星前夜』(飯島和一・著/小学館文庫)。


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posted by ふくちゃん at 21:47| Comment(0) | TrackBack(0) | ミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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