2015年03月03日

想像ラジオ




・内容(「BOOK」データベースより)
深夜2時46分。海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聴こえるという、ラジオ番組のオンエアを始めたDJアーク。その理由は − 東日本大震災を背景に、生者と死者の新たな関係を描き出しベストセラーとなった著者代表作。


 いとうせいこう氏、初読み。

 話題作でもあり、芥川賞候補作でもあった。

 東日本大震災がもたらしたもの、残したものを寓話的に描こうとした意欲作だと思うが、あの時の現実以上に、今の現状以上に胸に迫るものを提示することは難しいようだ。

 死んだ人のこと忘れず、死んだ人の声を想像の中で聞く。

 震災に限らず、大切な人を亡くした人間にできることはそれだけだし、それを忘れてはならない。

 忘れたふりして、聞こえないふりして、旧態依然のまま突き進むことの愚かさ。

 だが、もっともっと深い、強い小説を読みたい。

〔評価〕★★☆☆☆


 次は、『粛清の嵐 小説フランス革命15』(佐藤賢一・著/集英社文庫)。
posted by ふくちゃん at 20:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 純文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月30日

東京プリズン




・内容(「BOOK」データベースより)
日本の学校になじめずアメリカの高校に留学したマリ。だが今度は文化の違いに悩まされ、落ちこぼれる。そんなマリに、進級をかけたディベートが課される。それは日本人を代表して「天皇の戦争責任」について弁明するというものだった。16歳の少女がたった一人で挑んだ現代の「東京裁判」を描き、今なお続く日本の「戦後」に迫る、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞受賞作!


 単行本刊行時に話題を呼んだ作品。ということで、赤坂真理氏は初読みである。

 日本で食うや食わずの翻訳家となったマリが電話で、アメリカ北部の閉塞感漂う寒さ厳しい田舎でホームステイする16歳の自分と繋がる。

 時にマリは、戦後まもない頃の母親が見たであろう占領下の日本を幻視する。

 そして、リトルピープルや大王〔オオキミ〕、マリに食されたヘラジカがマリに話しかける。

 こういう村上春樹氏を連想させる語りは、それなりに楽しいのだが・・・。

 大東亜戦争、東京裁判、戦後、日米関係、天皇制の問題について、右の言説にも左の言説にも普通の人の感覚と言葉で痛撃を与える作品を期待していたのだが、グダグダの小説にしか思えなかった。

〔評価〕★★☆☆☆


 次は『思い出のマーニー』(ジョージ・G・ロビンソン著/高見浩・訳/新潮文庫)
posted by ふくちゃん at 20:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 純文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月28日

女のいない男たち




・内容(単行本の帯より)
『ドライブ・マイ・カー』− 舞台俳優・家福は女性ドライバーみさきを雇う。死んだ妻はなぜあの男と関係しなくてはならなかったのか。彼は少しずつみさきに語り始めるのだった。
『イエスタデイ』− 完璧な関西弁を使いこなす田園調布出身の同級生・木樽からもちかけられた、奇妙な「文化交流」とは。そして16年が過ぎた。
『独立器官』− 友人の独身主義者・渡会医師が命の犠牲とともに初めて得たものとは何だったのか。
『シェエラザード』− 陸の孤島である「ハウス」に閉じ込められた羽原は、「連絡係」の女が情事のあとに語る、世にも魅惑的な話に翻弄される。
『木野』− 妻に裏切られた木野は仕事を辞め、バーを始めた。そしてある時を境に、怪しい気配が店を包むのだった。
『女のいない男たち』− ある夜半過ぎ、かつての恋人の夫から、悲報を告げる電話がかかってきた。


 村上春樹氏の作風は変化を続けてきたわけだが(今の作品も好きだが、昔の作品がひとしお好きだ)、この短篇集(短篇にしては一篇が長い)は昔の氏を彷彿とさせる。

 例えば、比喩の使い方。「鼻持ちならない」という人もいるだろう。僕も目の前で現実に口にされたらむかつく気がする。だが、とてもいい。

 『ドライブ・マイ・カー』『独立器官』『女のいない男たち』は、どこにも行かない、どこにも行けない、(謎を残しつつも)完結した物語だ。

 一方、『イエスタデイ』『シェエラザード』『木野』は開かれた、謎だらけの物語だ。読者は想像の翼をいかようにも広げられる。

 『イエスタデイ』の木樽とえりかと僕(谷村)の関係は、『ノルウェイの森』のキズキと直子と僕のそれを思い起こさせる。違うのは大人になった今も、3人がそれぞれに生きているということだ。今の木樽に別の物語で会ってみたい。

 『シェエラザード』の羽原は「ハウス」に監禁ではなく保護されているようだが、「ハウス」とは何か、なぜ羽原はそこにいて一歩も外に出られないのか、全く説明されない。連絡係の女(羽原が名付けた綽名が「シェエラザード」)が語る真偽不明の話の続きも気になる。続きが読みたい。

 『木野』に登場する神田(カミタ)も謎だ。彼は木野の身に何が起こったのか、その不可解で不穏な何かを、木野本人よりも知っているらしい。しかし、木野にも読者にも説明されることはない。神田が木野の身を案じていることは確かだが・・・。木野が不穏な何かと自分の中の空虚を乗り越え(あるいは受け入れ)、自分のバー「木野」に戻り、平穏を取り戻すことを祈る。

 この短篇集を読んで、「何が面白いのかサッパリ分からない」という人がいても全く驚かない。しかし、僕は堪能した。

〔評価〕★★★★★


 次は『妖怪アパートの幽雅な日常 10』(香月日輪・著/講談社文庫)。
posted by ふくちゃん at 16:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 純文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。